玲子の場合 第1章 ACT1 | キャリアウーマンのそれぞれ -「タレントの卵・営業日誌」連載中-

玲子の場合 第1章 ACT1

 明日の書類の整理と準備を終えた玲子は軽く頭を左右に振った。
 振ることで頭の中を裏切る体の反応を打ち消そうとしたが、玲子の体の火はくすぶったままだった。

 ふと机の上を見ると、冷たくなったカップの底に飲みかけのブラックコーヒーが一口ほど残っていた。
 冷たくなったコーヒーを口にしたら体も冷めるかもしれないと思い、玲子はカップを口元に運んだ。
「ゴクッ・・・。」
 玲子は自分の喉が思い掛けないほど大きな音を立てたことに驚いて、思わず大きな眼を見張った。
 シンとしたオフィスの中で玲子のコーヒーを飲んだ音だけが強調されたような気がしたのだ。
 綺麗に上を向くように入れられたダークブラウンのマスカラが施されたまつげの瞳は大きく見開かれ、先程の妄想でうるんだ余韻を残していた。
 もう1度頭を振った玲子はカップを机に置き、コートを羽織ってバックを持った。
 普段、男と同じように仕事をこなす玲子だが、女性である部分を捨てて仕事をしている訳ではない。
 カップを持ったまま室内の消灯を確認し部屋の鍵をかけて給湯室へ向かい、自分の飲み終えたカップをマニキュアの塗られていない手で洗った。
 勿論、給湯室のガスや電気をチェックすることも忘れない。

 エレベータを降りた玲子はビルの裏手に回る。
 守衛さんへの挨拶も忘れない。
「お疲れ様です。8F最終です。これ・・・。」
と、玲子は部屋の鍵をカウンターに置いた。
 新聞を読んでいた守衛が振り返り、玲子の顔を見ると笑顔に変わる。
「いつも遅くまでご苦労様です。」
守衛は立ち上がって頭を下げてからカウンターへ近づいてきた。
「じゃあ、失礼します。お先です。」
玲子もつられたような笑顔で挨拶を交わし鉄の重い通用口を開けてビルを出た。
「お疲れさまです。」
 後姿を見送る守衛の笑顔は、玲子の姿がドアの向こうに消えた途端、淫猥な影が見えた。


「あの人は綺麗だしスタイルもいい。
 噂じゃかなり仕事も出来るらしいし、いつも燐とした雰囲気だが・・。
 夜の顔は別人なんだろうなあ・・・。
 男の腕の中でヒィ~ヒィ~泣くんだろうか?
 あんないい女を乱れるだけ乱れさせてみたいもんだ。
 後ろ手に縛り上げて、犯してみたいなあ。
 いや、俺のものを咥えさせてもいい・・・。」
 守衛は自分の唇を舌でなぞりながらニヤリと笑い、玲子がカウンターに置いた鍵を取り壁に掛けた。

 いつも礼儀正しい態度の守衛にそんな想像をされていることも知らず、玲子は地下鉄へ向かう階段を足早に降りていた。


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